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やっぱり社長は財務諸表を読めるべきか

工場を歩いていて、なんとなく気になることがあります。あそこの棚、いつ通っても物が置いてある気がする。あの工程、いつも遅れている気がする。

誰かが言ってきたわけではないし、うまく説明もできない。ただ、引っかかっている。

根拠がないと、話のきっかけにならない

なんとなくそういう気がする、では会議に出せません。出したところで、そうですかね、で終わります。何をどうしたいのかを自分でも言えないので、議論が始まりません。

一方で、現場からは具体的な話が出てきます。残業が続いているので人を増やしてほしい。この検査ができる人がシフトに入っていない日がある。この帳票、書くのが面倒なのでもっと簡単にしたい。どれもリアルな課題感で、目の前で言われた分だけ切実です。自然と手をつける順番が、そちらから決まっていくこともあります。気持ちの引っかかりは、その結果置き去りにされることも多々あります。

相談するにも、自分の意見が要る

誰かに相談してはいけない、という話ではありません。ただ、相談する側に意見がないと、相手の意見がそのまま結論になります。
あの棚が気になるんですが、と切り出して、今はこういう事情でと返されたら、そうですか、で終わる。これはこういう原因で発生しているから、こういう手を打つべきでは、という仮説が自分の中にないと、そこから先に進みません。

その仮説を、何を基準に立てるか。ここで財務諸表の出番になります。

決算書は、課題のありかを教えてくれる

決算書を読むと、会社のどのあたりで何かが起きているかが絞り込めます。在庫が増えている。労務費が膨らんでいる。外注費の伸びが売上を上回っている。
数字そのものは全社の合算なので、なぜそうなったかまでは書かれていません。ただ、どこを見に行けばいいかは分かります。

あの棚に物が置いてある気がする、が、棚卸資産の一行とつながる。人が余計に動いている気がする、が、労務費の伸びとつながる。こうして、言葉にならなかった引っかかりが、少しずつ言葉になっていきます。

引っかかりを、どこに当てるか

数字は、単独の増減だけを見ても判断できません。何と比べるかを決めてから見ます。

いちばんよく使うのは売上です。売上が1割伸びていて在庫も1割増えているなら、普通のこと。
売上が横ばいで在庫だけ2割増えているなら、何かが起きています。
ただ、比べる相手は売上とは限りません。労務費や外注費のように原価の中身を見るときは、製造原価に対する比率で見たほうが分かることもありますし、売上総利益率の動きと並べると、どこで利益が削られているかが見えてくることもあります。

引っかかっていること 決算書で当たる場所 そこから立つ問い
棚に物が置いてある。出荷が遅れている 棚卸資産、棚卸資産回転期間 売上の伸びに対して在庫が増えていないか。
増えているなら、それは仕掛かりか、完成したのに出せていないものか
人が余計に動いている 売上原価のなかの労務費 製造原価に占める労務費の比率が上がっていないか。
上がっているなら、残業か、応援か、やり直しか
外に出す仕事が増えた 外注費 売上の伸びより外注費が増えていないか。
増えているなら、社内の能力が足りないのか、
急ぎの逃げが常態化しているのか
なんとなく儲からない 売上総利益率 扱う製品の構成が変わっていないのに落ちていないか。
落ちているなら、想定より工数がかかっている仕事がどこかにある

どれも、そうだと決まるわけではありません。在庫が増える理由も、労務費が上がる理由も、ほかにいくらでもあります。
ここで分かるのは、引っかかりが気のせいではなかった、というところまでです。

在庫が増える原因を計画の側から見た話は「在庫課題の本質は“計画”にあり――改善のカギは『いつ・どれだけ作れるか』」に、
納期がどこで詰まっているかを調べる10項目の診断リストは「【診断リスト付】製造業で納期回答が遅い5つの原因」に書いています。

決算書から出てこないもの

「この作業を改善すれば年間1,256,000円利益が上がるはず」、といった数字は決算書を見ただけではわかりません。

財務諸表は、終わった期間の結果です。健康診断の結果に近くて、去年はこういう状態でした、ということが書いてあります。去年こういう手を打って、その後どう変わったか、という振り返りには使えます。ただ、同じ手を今打って同じだけの結果になるかというと、そうとは限りません。会社の状況は、その間に動いているからです。

影響の大小はおおよそ見当がつくにせよ、これから打つ手がどのくらいの効果になるかは、現場でやってみないと分かりません。決算書が教えてくれるのは、確かめに行く価値がある場所はどこか、というところです。

数字とつながると、話が始まる

当社がご支援している会社の話です。電子部品のメーカーで、従業員は15名。製造は外注に出していて、社内では検査を担当しています。

この会社では納期の遅延が続いていて、社内で強く言われていたのは「計画の立て方が悪い」でした。同時に、慢性的に1日2時間ほどの残業が発生していました。決算書の側から見れば、売上の伸びに対して労務費が膨らんでいる、ということになります。

では計画を精緻にすれば残業が減るのか。直近3ヶ月の遅延について、1件ずつ理由を確認しました。

分かったのは、受注量が検査の能力を超えている案件があることでした。検査は1日3,000〜4,000個が限界で、それを超える量を受けた時点で、納期の遅延は確定しています。残業をする前提で組んでも、遅延は解消しません。計画の立て方ではなく、受注量の問題でした。

受注を決めているのは社長で、現場からは社長の営業状況が見えていませんでした。

誰が言い出したか、ではなくなる

引っかかりが数字と結びつくと、机の上に載る話になります。労務費が売上の伸び以上に増えていて、理由を1件ずつ確認するとこうなっている。ここまで言えれば、会議で消えません。

社長が言い出したから議題になったのではなく、数字が示しているから議題になった、という形にできます。現場に説明するときも、これなら通ります。逆に、現場の言い分が数字と結びついたときには、それも同じように机に載る。数字は、どちらの側にも同じように使えます。

読めたほうがいい、と思う理由

決算書を読めるようになったからといって、工場が変わるわけではありません。変わるのは、社長が自分の引っかかりを言葉にできるかどうかです。

気がする、で止まっていたものが、確かめに行く理由になる。財務諸表が社長にとって役に立つのは、そこだと思っています。

文:後藤 健太郎(株式会社スカイディスク 取締役CSO)

           

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