- コラム
AIでベアリングの残り「耐用年数」を知る!
1.ベアリングについて
ベアリングとは、一言で言えば「回転摩擦を減らす部品」であり、あらゆる機械にとって極めて重要な役割をもっています。なぜ重要かと言えば、「動力の変換」や「機体の移動」には回転を利用することが多く、摩擦を減らすことは省エネルギーに繋がるためです。
経済産業省の統計資料によると、2018年度の国内のベアリングの販売高は7000億円で、前年度比を3%上回っています。機械全般の受注は好景気によって増えるため、現在の景気回復傾向が継続すればベアリングの生産もますます増加していくでしょう。メーカーとしては、複数の企業が競争状態にある中で品質の高さを追求する必要に迫られています。
ベアリングの品質の良さは、何によって決まるのでしょうか?ベアリングは、悪環境において長時間使用されるため、どんなに強固な作りをしていても必ず劣化していきます。劣化が放置されると、機械システム全体の故障が引き起こされるリスクが高まります。このため、顧客にとって喜ばしいベアリングの品質とは、まずは「壊れにくい」こと、そして「壊れてもすぐ気づく」ことです。
材料化学や設計工学は発展してきているものの、歴史の長いベアリング業界に蓄積したデータを活用するという情報工学的な視点には欠けていました。機械学習に代表されるAIテクノロジーを適用できれば、ベアリング生産にブレークスルーがもたらされることでしょう。以下では、ベアリングの生産と管理に適用できる機械学習技術の最新動向をお伝えします。
2.海外の事業会社例
2-1. STEAM-0D
ヨーロッパには、STREAM-0Dという産学連携のプロジェクトがあります。3つの研究機関と7つの企業が提携し、データ駆動型の産業ソリューションを開発しています。 彼らの開発したもののひとつに、「機械学習によるベアリング損傷の予測技術」があります。
実際に、スペインのベアリングメーカーであるFersa Bearingsは、STREAM-0Dの開発チームによって、潜在的なベアリングの欠陥を予測するソリューションを提供されました。
参照:https://www.stream-0d.com/blog/bearing-predictive-analytics/
2-2. SKF
また、ベアリング製造で世界最大手のSKFは、独自の機械学習プロジェクトを進めています。何百万ものベアリングから収集したデータにラベルをつけて、そのデータセットを整理しています。
彼らがまず第一に取り組んだのは「異常検知」。データから読み取れる部品やシステムの問題をリアルタイムに把握するというミッションでした。その後、「自動診断」や「予後(回復)診断」に取り組みました。予後診断は、以下の様なメリットをもたらします。
- 壊滅的な障害や予定外のメンテナンス、生産損失を回避する
- 機械のオーバーホールの回数を抑えることでメンテナンスコストを削減する
- 障害の重大度を事前に測ることでベアリングの寿命を伸ばす
また、SKFは、ベアリングの寿命を伸ばすために機械学習を本格的に活用すべく、イスラエルのAI企業Presensoを買収しました。
参照:https://www.skf.com/jp/index.html
3.ベアリングの耐用年数を予測するAI技術の研究
さて、イギリスのDe Montfort大学のXiaochuan Liら研究者は、「教師つき機械学習手法」をいくつか組み合わせて、転がり軸受(最もベーシックなベアリング)の残りの耐用年数を高度に予測する研究を行いました。それに伴い、ベアリングの破損状態をレベル分類しました。
上の図は、ベアリングの残り耐用年数を知るための機械学習手法である「逆伝搬ニューラルネットワーク」の概念図です。プロジェクトによっては、1種類のアルゴリズムのみが使われる場合もありますが、今回はこの手法の実用性を高めるために、回帰という手法も同時に用いられました。
使用されるデータセットは、風力タービン内に取り付けられた高速シャフトベアリングから収集されました。機械学習に必要なデータセットは膨大な数が必要とは限りません。今回は実際の使用環境から50個のデータセットが準備されました。さらに、実験用の試験装置からもデータを取得し、これらのデータをアルゴリズムに学習させました。
最終的に、このモデルは、ベアリングの民間企業の提供する産業データを通じても検証され、正確性の高い寿命予測ツールであると判明しました。 また、上述したように2種類の機械学習手法が組み合わされましたが、1種類のみの場合と正確性を比較したところ、やはり組み合わせた時のほうが正確性が高いことも判明しました。製造業における機械学習の方法論を考える上でケーススタディの一つとしても役立つ研究です。
参照:Xiaochuan Li, Faris Elasha, Suliman Shanbr and David Mba, “Remaining Useful Life Prediction of Rolling Element Bearings Using Supervised Machine Learning”, Energies 2019, 12(14), 2705; DOI
4.おわりに
ベアリングの最も古い歴史としては、レオナルド・ダ・ヴィンチの発明が原点であるという説が有効です。当時から現在に至るまで、大きなイノベーションが起きていないことは驚きに値します。別の見方をすれば、極めて完成度が高い設計だとも言えます。 ベアリングに限りませんが、製造業の競争は品質の勝負になっていることが多いですね。機械学習を用いて使用環境を支えるクリティカルなソリューションには今後も注目です。
※この記事はAI論文紹介メディア「アイブン」様より、ご提供いただいています。
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